「椅子の上に立ってはダメ」
そう言ったら、息子は椅子から降りて、椅子の前に立ちました。
ふざけているわけではありません。本人は、言われたとおりにしたつもりです。「椅子」と「立って」だけが届いて、その通りに動いたのだと思います。
自閉症の息子は、いま小学1年生です。5歳のときの発達検査の報告書には、こう書かれていました。
視覚的な手掛かりがあると理解や行動が促されやすい
裏返すと、言葉だけで理解するより、目で見て分かる手掛かりがある方が、理解や行動につながりやすいということでした。この記事では、息子に「通る言葉」と「通らない言葉」の違いと、わが家で続けている伝え方を書きます。
▶ 報告書のこと → 田中ビネーを5歳で受けた自閉症の息子|発達検査の前に知っておきたい5つのこと
通る言葉と、通らない言葉
毎日の中で、並べてみるとこうなります。
| 言い方 | 息子 |
|---|---|
| 歩こう | ○ |
| 走りません | × |
| 走って | ○ |
| 急いで | × |
| ゆっくり | × |
| 椅子の上に立ってはダメ | × (椅子の前に立った) |
| 登ったら、降りて | ○ |
通るのは、目に見える動きの言葉です。歩く、走る、降りる。
通らない言葉は、2種類ありました。
1. 否定の言葉は、「ダメ」が届きにくい
「走りません」「立ってはダメ」。
息子には、「ダメ」「〜ません」の部分が届きにくく、「走る」「立って」だけが残るように見えます。だから、止めたいはずの行動を、そのままやってしまう。
叱っているのに同じことをする。わざとだと思っていた時期もありました。でも、椅子の前に立った息子を見て、言われた言葉をそのまま実行しているのだと分かりました。
2. 様子の言葉は、目に見えない
「急いで」「ゆっくり」。
「走って」はできるのに、「急いで」はできない。どちらも速く動くことなのに。
息子の場合は、違いの一つは「目に見える動きかどうか」でした。「走る」は、どんな動きか見れば分かる。でも「急ぐ」「ゆっくり」は、速さの感覚の言葉です。どのくらいが「急ぐ」で、どのくらいが「ゆっくり」なのか、形がありません。
わが家の伝え方
否定ではなく、してほしい動きを言う
- ×「椅子の上に立ってはダメ」
- ○「登ったら、降りて」
止めたいことではなく、次にしてほしい動きを言います。「降りて」なら、何をすればいいか分かる。
「走りません」も同じで、「歩こう」と言えば通ります。
様子の言葉は、一緒にやって見せる
息子には、「ゆっくり」を言葉で説明しても伝わりませんでした。だから、一緒にやります。
手をつないで、ゆっくり歩く。歩きながら「ゆっくりね」。体で速さを感じている、その瞬間に言葉をのせます。
これは、「冷たいね→温かいね」「高いね→低いね」を教えたときと同じやり方です。先に体験があって、言葉はあとから。
準備は、見て分かる形にする
朝の学校の準備や、お出かけ前の準備は、写真や絵カードで見せています。
壁にホワイトボードを貼って、ランドセルに入れるものの写真や絵カードを貼っておく。「連絡帳入れて、水筒入れて、筆箱入れて……」と耳で言うより、見て一つずつ入れる方が、ずっとスムーズです。
言葉で何度も言うより、1枚見せる方が早い。息子の場合は、これがいちばん効きました。
▶ 写真カードの作り方と、わが家で使っている道具(ラミネーターなど) → 絵カードの自作方法|写真とイラストの使い分け
正直に書くと
家族や先生と、言葉を一つひとつそろえることはしていません。
共有しているのは、一つだけです。指示が通らないときは、してほしい行動を言う。
言い方をきっちりそろえれば、その場では通りやすくなるのかもしれません。でも、私が願っているのは、成長とともに、特定の人の言い方だけに頼らず、いろいろな人の伝え方が分かるようになることです。学校の先生、放課後の先生、いつか出会う大人たち。みんなが同じ言い方をしてくれるわけではありません。
だから、今のわが家では、言い方を完全にそろえることより、通らないときに伝え方を変えることを大切にしています。
▶ 「私にはできるのに、ほかの人だとできない」を越える練習 → 絵カードの使い方|般化の教え方
まとめ:今日からできる3つ
- 否定ではなく、してほしい動きを言う(「立ってはダメ」→「降りて」)
- 様子の言葉は、一緒にやって見せる(「ゆっくり」→手をつないで一緒に歩く)
- 準備は、見て分かる形にする(ホワイトボードに写真や絵カードを貼る)
言葉が届かないとき、子どもが分かっていないとは限りません。届く形になっていないだけかもしれない。息子の「椅子の前に立った」は、それを教えてくれました。
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※本記事は個人の体験に基づくものです。伝わりやすい方法は子どもによって異なります。療育の方針については、専門家にご相談ください。


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